作曲家 金子忍の 提供できる仕事

歌作りサポートの実践

2016青葉区小中高生ミュージカルの実践

 2001年の第1回から音楽提供をしている青葉区小中高生ミュージカルの、2016年度作品『勇気のめばえ』のミュージカルナンバー『空っぽの宇宙』は、参加者の子どもたちの有志7名が力を合わせて作曲に取り組みました。

 このミュージカルで子どもの作曲した曲がミュージカルナンバーになったことは、過去にもありました。
 配役を決めるオーディションに臨むにあたり、その役に強い思いをもって、脚本の歌の部分に自分なりのメロディーを付けて(まだその段階では曲が出来ていなかったので)歌ったものが良かったため、多少修正をして採用したのでした。

 この年も、最初のきっかけはそうだったのですが、たまたまこの年の脚本は高校生が手作りのミュージカルに取り組む物語で、『空っぽの宇宙』という、生徒が創作したという設定の歌が入っていました。
 そこで、脚本(作詞)&演出の目﨑剛さんとも相談し、

「もし作曲をやってみたい子がいたら任せてみてもよいのでは?」

ということになり、子どもたちに呼びかけたところ、中学2年~高校3年の7人もの子が名乗りを上げてくれたのでした。

 それまでの子ども作曲採用例との大きな違いは、
・子どもたちによる創作を必ず採用するという前提で創作に取り組んだ
・複数のメンバーがゼロから知恵を出し合って話し合いながら作った
・決定権を生徒にゆだねた
という点でした。

 こういったかたちの作曲指導の実践経験は、小学校のクラスを対象にしたことがありましたので、必ず出来る確信はありましたが、私もその他の曲の作曲に取り組みながら、稽古場に行って演技の稽古の時間に稽古と並行して子どもたちといっしょに作ることになるので、
・どれくらい(私が稽古場に行く)時間がとれるか、
・なるべくほかの稽古の時間に食い込まずに、なおかつその後の歌練習の時間がとれる時期までに仕上げられるか、
ということは冒険の面もありました。

 しかし、歌唱指導やダンスの先生方の理解と協力と応援と、メンバーたちの意欲的な取り組みで、予想以上のハイペースですすめることができました。

 公演は2月中旬。

 旧年中に8~9割方の曲の作曲を終え、新年に入ってすぐ、最後の1~2曲の稽古をする、というのが例年の流れで、この年も、旧年中にほかの曲はできあがり、この最後の一曲を残すのみという状況で冬休みを迎えましたが、メンバー全員が顔合わせをする機会はとれず、12月末の稽古の際に、

「脚本の中の“劇中劇”の部分を抜き出して読み、なんでもよいから、思いつくイメージやキーワードをもってくる」

という宿題を出して冬休みに突入しました。

 

『空っぽの宇宙』

作詞:目﨑 剛

果てしなく広がる宇宙
数え切れない幾千もの星
それにくらべて私たち
とてもちっぽけ
空気もない空っぽの宇宙を

突き進んでいく
でも
なにもないなら

なんでもできる
夢と希望を詰め込んで
自分の宇宙にしてしまおう!

 


  最初の1回は、まず最初に劇中劇部分の台本を読み合わせ、どんな脚本のどんな場面で歌われるのか確認し、脚本の中での位置づけや意味、イメージについて話し合いました。
そこで出てきた意見(曲の位置づけ)は
「お芝居の始まりの曲」
「これからお話が展開していく感じ」
「お客さんを物語の中に連れて行く役割の歌」
であるということ。
そして、詞のイメージとして、
「なにもない」 「孤独」 「寂しさ」
「冒険」 「勇気」 「解決」
といったキーワードが出てきました。

 また、歌詞の真ん中の「でも」ということばを境に、前半と後半で大きく世界が違うということに気づき、
「「でも」はせりふで言う形にして、前半と後半でがらっと曲調を変えよう」
ということになり、

前半は“無・孤・寂”を、
後半は“冒険”のイメージに、

とプランが固まっていきました。

 当初、稽古場での時間がとれないことを想定して、メロディー作りは2回目までの「宿題」にして、2回目に初めて各自が考えたメロディーを突き合わせてよいところをつなぎ合わせていこうとも考えていました。
なのであくまで“練習”となる覚悟で、詞に合わせてワンフレーズずつリレーのようにメロディーを作って、前の人が作ったメロディーの続きを思いついた人が受け取って作ってバトンタッチしていく、というワークをしました。

 すると、練習ということで楽な気持ちで取り組めたせいか、みるみるメロディーがつながっていきました。
そしてそれは、先に話し合ったイメージをしっかり受けたメロディーとなっており、
「それならばこのまま作ってしまおう」

ということにし、一気に前半の部分ができあがっていきました。

 一方、一つの歌詞にいくつものメロディーが出てきたところもありました。
 二つのメロディーがちょうどハーモニーになったものもありましたし、どれがよいか、意見が割れたところもありました。
 提案した子どもたちは、それぞれにこだわりどころがあるのですが、しっかりした理由(根拠)や想いがあり、どれもとても納得がいく考えなのです。
 また、かならずしもメロディーを作った人が自分の案こだわるわけではなく、
「他の人の作ったメロディーだけど、自分の考えたメロディーよりいい!」
といって推すケースもありました。
 メンバー同士、互いに良いところを認め合い、でもこだわるところはしっかりこだわって、とても熱く、しかし和やかな雰囲気で話し合いが進みました。

意見の割れたところは、両方を候補として残して保留として、第1回のワークは終了しました。
(ここまで、約2時間ほどでした。)


 2回目は、前回の流れを確認してすぐ、後半のメロディーの創作に入りました。
 「冒険」のイメージの具体例として
「ディズニーの『シンドバッド』の曲のイメージがいい」

という意見がでたのでみんなで「シンドバッド」の曲を聴いてみました。
 そして三連符のリズムが勇壮感を出していることに気づいたので、最初はそのリズムに乗せて替え歌のように歌詞を歌ってみました。
そのうえで、ことばのイントネーションや語数を意識すると、自然と独自のメロディーになっていき、参考曲のイメージをしっかり受け継ぎつつもオリジナルのメロディーができあがっていったのでした。
 
 伴奏の和音についても、幾通りかの候補を子どもたちに示し、脚本のイメージと照らして子どもたちが選んで決めていきました。

(この話し合いは約1時間でした。)

 

 

 3回目は、前回までに複数の案が出ていた部分をどうするか話し合いました。

 これまでに出ていた案を確認し、その部分の詞のイメージを確認し、どちらの案がよりふさわしいか、あるいはそれらをうまく融合させることはできないか、など、知恵を絞りました。

 

 終わりの部分は、特にこだわりをもったところで、いったん固まってきたメロディーと、脚本から受け取った表したいと思っていたイメージとちょっとちがってしまったというところをもう一度考え直し、候補に挙がったメロディーのよいところをうまく融合させるよう、何度も歌ってみて少しずつ修正していき、メンバー全員が納得できるかたちで、メロディーがまとまったのでした。

(この話し合いは約20分ほどでした。)

 


 次に、できあがったメロディーを受け取って私がアレンジをしたわけですが、ここも子どもたちのイメージを具現化するために、こだわるキーワードを確認して臨み、子どもたちのイメージをもっとも生かせる楽器構成を考えてアレンジを施しました。
 そして、出来た音源を子どもたちに聴いてもらい、イメージ通りになっているか確認しました。

 また、「でも」というセリフを境に曲の前半と後半で大きくイメージが変わるところは、

「前半の最後で次の展開を予感させる和音にするか」、

「あくまで前半は寂しいイメージで終わり、後半は前半とは切り離していきなりダイナミックな展開にするか」、

両方の案を示したところ、子どもたちは、
「前半はあくまで孤独のイメージで、いったんすぱっと区切って、後半盛り上がる方がいい!」
という意見が多く、後者に決定。このように、細部まで子どもたちの意志で決定していきました。

 

 

 こうして、1月の最初の稽古の日から1~2時間の話し合いを2回でおおむねできあがり、

曖昧に残しておいた部分の確認に20分、アレンジをした音源を確認しながら最終調整15分ほどの、計4回で完成したのでした。


 そして、いよいよこの曲の初稽古。
 新曲を練習する際には、通常は、私と歌唱指導のさとう順子さんが最初に歌って聴かせるのですが、
「この曲は、ぜひ作った子どもたちに歌ってもらいましょう」
ということになりました。

 

 お披露目の前に、ちょっと打合せをし、歌う前に作曲担当メンバーたちに一言、作曲に関わっての想いや感想のコメントを言ってもらってからお披露目をしました。
メンバーたちは、自分のこだわりどころや、いくつもの意見が出てとことん話し合ったこと、「とても気に入っているので、大事に歌ってもらえたら嬉しい」といったコメントを語ってくれて、そこからは、この曲に対する思い入れが伝わってきました。


  そして、お披露目。みんなの前で堂々と歌い上げ、拍手を受けたメンバーたちの顔は、この曲を自分たちの力で作り上げたという誇りと達成感に輝いていました。

 「作曲を子どもたちがやるなら、振り付けも任せてみましょう」
と、振り付け担当の柳麻貴子さんが子どもたちに投げかけられると、今度はさらに多くの子どもたちが
「やりたい!」
と目を輝かせて手を挙げ、その後見事な振りが付きました。
 本番では、たくさんのお客様に観ていただいて、大成功を収めることができました。

 今回の活動は、歌や踊りが大好きで、音楽に触れる機会の多い、特に意欲のある子どもたちへの実践でしたが、歌い踊り演じることだけでなく、創作にも子どもたち自身が加わるという、子どもたちによるミュージカルの新たな可能性を感じさせてくれる、興味深い実践となりました。